インドUPI 2025年度に534兆円規模 進出中小企業と訪日対応の5論点

インドのUPIが2025年度に過去最高、「日常インフラ」になった即時決済
2026年5月時点で、インド準備銀行(RBI)と国家決済公社(NPCI)が運営する即時決済システム「UPI」(Unified Payments Interface)の取引規模が、改めて世界の注目を集めています。ジェトロの2026年5月11日付ビジネス短信によると、2025年度(2025年4月から2026年3月)のUPI年間取引件数は約241億6,000万件、取引金額は約314兆ルピー(およそ534兆円)に達し、いずれも過去最高を更新しました。
「インド向けは大手だけの話でしょう」、そう感じた方もいるかもしれません。ですが、もはやUPIはインドのレジ前で空気のような存在になり、進出中小企業の売り場・店舗運営・代金回収のかたちを変え始めています。さらに2026年度には日本国内でも、訪日インド人向けにUPIが使える方向で動いている。決済の話を「経理マターだから」と棚に置いておけない局面に入ってきました。
年間取引件数 約241億6,000万件/年間取引金額 約314兆ルピー(およそ534兆円)。直近の2026年4月単月だけでも、約223億5,000万件・約29兆ルピーが流れています。1ルピー=約1.7円換算。
2025年度のUPIで起きていること
9年で「現金とカードの間」を一気に飲み込んだ
UPIが動き出したのは2016年。スマートフォンアプリでQRコードを読むか、相手の仮想決済ID(VPA)を入れるだけで、銀行口座間の送金が無料・即時で完結する仕組みです。インド政府の「デジタル・インディア」政策と、コロナ禍での非接触決済需要が重なり、9年でクレジットカードとデビットカードの取引金額をはるかに超えました。注目したいのは普及地域の広がりです。デリーやベンガルールといった大都市だけでなく、人口10万人未満の準都市や農村部の屋台、八百屋、街角の小売店までUPIが浸透しています。これがインド市場の規模感の本質です。
「日常インフラ」というコメントの意味
ジェトロの記事では現地フィンテック企業の経営者の言葉として「デジタル決済はインド国内において、試行段階から日常インフラの一部となりつつある」と紹介されています。電気や水道に近い扱い、と解釈してください。日本企業がインドで直販店・カフェ・小売・サービスを構えるなら、UPI対応は「あった方がいい機能」ではなく「ないと不便な店」のラインに移ったわけです。
進出中小企業の事業に何が起きるか
BtoCの売り場では現金とカードだけでは取りこぼす
現地のSPAブランド、外食、観光案内所、ECショップのフィット試着拠点、こうしたBtoCの売り場では、レジでQRコードを差し出されるのが当たり前です。UPI非対応の店は「現金しか使えない遅れた店」と認識される場面が、特に20代から30代の都市消費者の間で増えています。客単価の小さい商材ほどUPIの即時送金は強力で、現金不足を理由にした購買離脱を防ぐ意味も大きい。
BtoBでも代金回収のサイクルが短くなる
「うちは商社経由でBtoBだから関係ない」と思った方もいるかもしれません。ところが、現地で小口の代金回収が必要になった瞬間、UPIは無視できなくなります。少額の検収後支払い・サンプル代の回収・現地スタッフへの経費精算を、銀行小切手の往復ではなくUPIで即時に行う運用が、進出中堅企業の現地法人で標準化しつつあるのが現状です。月末の振込処理が一気に軽くなる効果もあります。
UPIの加盟店登録は「日本企業の現地法人名義」で、インド国内銀行口座と紐付ける必要があります。駐在員個人のVPAで売上を受け取ると、会計と税務で後から大きな問題になります。本社の経理と必ず事前に整理してください。
2026年度、日本側でも始まるUPI受け入れ
もう一つ押さえたい動きが、日本国内でのUPI受け入れです。NTTデータは2025年10月7日、NPCIの国際子会社であるNPCI International Payments Limited(NIPL)と基本合意書を締結し、2026年度に日本国内でUPI決済を使えるようにすることを目指すと発表しました。UPIにとって初の東アジア展開になります。
役割分担はシンプル。NTTデータが日本での加盟店開拓・対面決済サービスの提供・加盟店への入金処理を担い、NIPL側が決済プラットフォーム自体の運営とNTTデータへの送金を担当する設計です。日本側の中小企業から見れば、将来的に飲食・観光・物販事業者がUPIのQRコードを受け付けられるようになるということ。インバウンドのインド人観光客と在日インド人を取り込む新しい入口が一つ増えます。
「インド人観光客なんてうちの店には来ない」と思いがちです。実は訪日インド人は年々増えており、宿泊・飲食・体験型ツアー・土産物販ではすでに目に見える存在になっています。決済が壁になっていた層が、2026年度以降に解放されると見ておくのが妥当です。インド客の購買力を取りこぼさないための準備期間が、いま始まっていると考えてください。
中小企業が今すぐ取り組むべきポイント
- 現地法人の銀行口座にUPI加盟店登録を紐付ける運用設計を、進出済み・進出予定の企業は本社経理と一緒に固める
- POS・レジ機器の仕様確認──現地で導入予定または運用中のレジが、UPI QR・SoundBox(音声通知端末)等に対応しているか、IT責任者に確認する
- 少額代金回収プロセスの見直し──サンプル代と現地経費精算をUPIで完結させるルートを整え、月次の銀行振込コストを抑える
- 会計・税務面の整備──UPIの売上は日次で口座着金するため、現地会計士と入金照合プロセスを事前合意しておく
- 日本側の受け入れ準備──飲食・観光・小売の事業者は、2026年度のUPI日本展開動向をNTTデータ・JETROのリリースで継続ウォッチし、加盟店登録の時期を逃さない
まとめ
- UPIは2025年度に取引件数約241億6,000万件、金額約314兆ルピー(およそ534兆円)と過去最高。「日常インフラ」の段階に入った
- 進出中小企業のBtoC売り場でUPI非対応は機会損失。BtoBでも少額の代金回収と経費精算で標準化が進む
- NTTデータとNIPLの基本合意で、2026年度には日本国内でもUPI決済が使える方向に動いている
- 決済はもう経理だけのテーマではなく、現地での売上機会とインバウンド受け入れの両面に直結する経営テーマです





