コミュニケーションの技

外国語ができる=コミュニケーションができる、ではありません。コミュニケーションとは全く違う能力のことです。コミュニケーション能力とは意志を通わせる力、言わば自分の思うように相手に思ってもらう影響力を意味します。誠意と善意があれば伝わる、怖くないという素人考え、無邪気・無知・無防備という安全オンチを見直し、日本とは違うという基本常識を忘れないようにして下さい。

2026年現在、ChatGPTやDeepLなどのAI翻訳ツールの精度は飛躍的に向上しました。しかし、言葉を正確に訳せても、その言葉の背後にある文化・価値観・感情のギャップを埋める力は、依然として人間にしか持てません。AIはコミュニケーションの「手段」を補助するツールであり、「意志を通わせる力」そのものを代替するものではないのです。

海外営業の視点から見ると、以下の3点がコミュニケーションの基本

  • 慣用句のギャップを埋める
  • 常識のギャップを埋める
  • 価値観の違いを埋める

外国の取引先・現地法人の従業員と、日本人として日本で生きるスタッフとの意思疎通は、海外営業部門で働く醍醐味・楽しみであると同時に最大の悩みの1つです。誤解に継ぐ誤解、収拾がつかなくなることも珍しくありません。一度発信したメッセージはもはや送り手のコントロールは一切及びません。受け手の全く予想もしない反応に驚かされるのです。相手の反応が自分のコミュニケーションの成果である、そう思うほど想定外の反応はショックなものです。

海外では見られ方も変わる

例えば、日本でよく見かける、電車の中で化粧をする女性。では、営業で外国を訪問していて、あれと同じ事を外国でやったらどうなるでしょうか? 立派な営業パーソンであるはずのその女性が発信する無言のメッセージは、受け手にとっては全く違うものになります。恐らくは売春婦と思われトラブルに巻き込まれ、警察も取り合ってはくれないでしょう。

2026年現在、SNSへの投稿・プロフィール写真・オンライン商談時の背景や服装なども、相手国のビジネス文化によっては全く異なるメッセージとして受け取られる場合があります。オンラインとオフラインを問わず、「自分が発信しているメッセージ」を相手の文化的文脈で常に点検する習慣が求められます。

日本人の感覚だけで考えるとすれ違う

仕事に対する考え方の違いから、日本人感覚で仕事をするとズレてしまう場合があります。違う尺度を持った人々なのだ、と理解をして仕事をすることが大切になります。集団主義と個人主義、これも日本人の感覚と大きく異なります。例えば東南アジア。一般的に華僑を始めとするアジアの中国系ビジネスマンには、地縁・血縁を重視し集団主義的なイメージがありますが、会社生活の中では意外と欧米的な個人主義的な発想をすることがあります。

  • 人間が努力で報われ、努力をしようとする世界
  • 神の意志で決まり、努力をしても意味がないとする世界
  • なんとかなる世界

就職と就社の意識の違いも大きく、担当者が比較的早く入れ替わることがあります。担当者には、スキルアップ意欲・改良自助努力が無い場合も多く、あくまでもその人なりの仕事になります。勤労・働くこと自体に価値を見出し、カイゼンを追求する日本人とは全く違い、むしろ勤労は神から与えられた罰であり、生きるための必要悪と考えられていることも理由の1つです。モノにこころを見ることもあまりなく、根底に働く喜びがあるわけでもなく、日本でアルバイト社員がサービス品質向上に努める姿など、彼らから見たら不思議な光景でしょう。

また、海外の取引先が中小企業の場合、担当者でなく経営者と直接付き合う場合も多くありますが、その場合も日本人の感覚とは大きく異なります。日本人が代理店や取引先に対して、運命共同体的な発想で付き合う傾向があるのに対し、彼らにとって私達は利益共同体です。私達のために●●してくれ的な浪花節は通用しないのは言うまでもありません。また、察しのよさを期待する・はっきりものを言わないは通用しません。相手の価値観では、屁理屈でも総動員して反論してきます。自分を守るのは自分という世界で生きているのですから当然です。しかし、後にしこりを残さない、これも生きるための知恵です。

製造業の方は特に注意!日本流・暗黙知/匠の技

日本人特有の以心伝心。相手が察してくれることを期待する性格。きれいにしてくださいと言っても、きれいのレベルは人それぞれ。日本には職人芸・外注の職人技というものがあります。よろしくやれという仕様書でモノが出来てしまう、間違いも修正されて完成してくる匠の技です。これは日本の底力となった知的なであった反面、エンジニアの知識不足・怠慢をカバーしてきてしまった一面があります。

そのという言葉が文化の違いであり、日本人が何か良い手はないか?と手と知性を結びつけ、ホワイトカラーとブルーカラーを一体に考える傾向がある一方、海外では、ホワイトカラーとブルーカラーの身分が違う場合が多く、技術と技能を分化している状況が多く見られます。要するに、仕様書の改善や職人芸を現場に望めないということになります。

日本人的感覚で海外の外注・下請工場と仕事をするとこのような壁にぶつかる場合があり、無駄なコストを支払う結果に陥ることがあります。床すらきれいに掃除できないのではなく、私達の言うきれいとはどのような状態のことか、それを達成するためにはどのような作業が必要なのか、を指導していないだけなのです。日本人の暗黙知は通用しません。

2026年現在、AIによる作業マニュアルの多言語化・動画による手順説明ツールが普及しており、「暗黙知を形式知に変換する」作業をAIで効率化できる環境が整っています。日本流の「見て覚えろ」から、具体的・論理的な指示書への転換を、AIツールを活用して進めることをお勧めします。

形で本質が伝わらないのが海外営業

形や無言の背中で伝えない。なぜなら伝わらないから。指示書で具体的な説明を繰り返すことで初めて理解される。中々反応しない取引先に対し、一度やって見せる、見せたくなるのが私達です。日本の美談で、社長が毎日トイレ掃除をし、社員がそれを見て心を入れ替えるというシーンがありますが、海外の取引先やスタッフ相手では社長、ここも汚れてますと指摘されるのが関の山です。形で伝え、相手に気付かせようとするのではなく実務上の具体的な効果を繰り返し論理的に説明するのが海外営業流です。精神論・個人の思想の押し付けはトラブルの元になります。根気よく、日本の仕事品質・考え方について説明し続けることしかないのです。

また、日本人的な例え話にも注意してください。私の体験談ですが、海外の取引先に今のままでは我が社は生き残れない。拡販にもっと協力してほしい。と言ったことがありました。その取引先は、すぐに私の会社の社長に手紙を送りおたくの社員から会社が倒産すると聞いたが、事実でないならばとんでもない不良社員だ。と言われてしまいました。その手紙が社内で悪用され大きなトラブルになり、日本人的表現は危険だなと、とても勉強になった事例でした。

2026年現在、メールに加えてSlack・WhatsApp・WeChatなど複数のチャンネルでコミュニケーションが行われるようになり、テキストメッセージが意図せず切り取られ、拡散するリスクはかつてより高まっています。日本人的な婉曲表現・感情的な訴えは、デジタルコミュニケーションの場では特に誤解を招きやすいことを肝に銘じておきましょう。

慣用句の落とし穴

セカンドランゲージ同士の方が意外と通じたり、ネイティブじゃないから通じなかったり。言語に頼らず、本質を理解し合うコミュニケーションを意識しましょう。

中国語でチィファンラマ?という言葉があります。飯食ったか?というものですが、中国では挨拶のように使われています。英語のあまり得意でない中国人がDid you eat?と直訳して聞いてきた場合、まだ食べてないと答えるより、アイムファインなどと答える方が適当だという場面があり得ます。また、日本人流の、検討して後日ご連絡します、を中国語にする場合、検討を直訳すれば、自分の非を認めて誠意を持って対応する、というニュアンスを含んでしまうため、研究します、と意訳しなければならないという例もあります。素人の通訳には様々なリスクが存在します。

2026年現在、AIによる翻訳ツールは「言葉」を正確に訳せても、こうした「文化的ニュアンス」の変換には限界があります。AI翻訳をそのまま使うのではなく、現地の言語・文化に精通した人間によるチェックを必ず挟む習慣が、トラブル防止の最大の安全弁です。

当然ですが英語のうっかりミスに気を付ける

英語でのコミュニケーションで最も多い誤解を生む場面。それがなんと、YESとNOの使い方。肯定はYES、否定はNOです。よく間違える人を見かけ、ヒヤヒヤする時があります。

I hope no one was injured there.

ここで問題です。私もそう思いますと言いたい時はどのように言うのが正解でしょうか?

  • I hope so, too.
  • I do not hope so.
  • I hope not, either.

答えはが最も適切と思われます。しかしながら、会話相手もネイティブではない場合には、相手が文法を間違えている場合があったりしますので、見極めも必要です。

2026年現在、ChatGPTなどのAIツールを使えば英文の文法チェックは瞬時に行えますが、こうした「文脈に依存するニュアンスの誤り」はAIでも見落とすことがあります。最終的な判断は自分自身の英語力と経験によるところが大きく、日頃からの英語学習・実践を怠らないことが海外営業パーソンの基本姿勢です。