安全保障貿易管理~現場対応の事例ピックアップ
日本の競争力を支える高度な技術や製品ですが、輸出の際に規制を受ける事があります。
日本の企業はどのように対応しているのでしょう?
CASE1:工作機械メーカーの例
航空機の部品加工や自動車製造に使われる高精度な機械を製造しています。
機械の精度は1マイクロメートルで、1/1000ミリレベルでの加工が可能です。
高い精度を誇る為、核兵器の製造も可能で、軍事転用される危険性があります。
その為、この工場で生産しているおよそ50種類の工作機械のほとんどが安全保障貿易管理における輸出規制の対象となっています。
輸出された規制対象品が思わぬ経緯で転売され、軍事転用されるおそれもあります。
対応として、この企業では以下の取り組みを行っています。
1.メンテナンス時のチェック
工作機械はメンテナンスが必要なので、メンテナンスの受付時に必ず生産号機を聞き、正常なお客さんの元にあるかチェックしています。
2.取引先情報の審査
用途、住所確認、財務諸表の取り寄せを含め、以下のチェックを徹底的に行っています。
・機械はどこに使われるのか
・どこの会社に納められるのか
・納入先で最終的に使われる貨物は何か
極めて慎重な対応が求められる規制対象品の輸出。
責任者は、「これは我々が作っている商品の宿命。
我々自身がしっかり確認していくべきものと認識している」と語っています。
CASE2:総合商社の例
海外企業と取り引きするこの企業では、安全保障貿易管理について以下のような取り組みを行っています。
1.該非判定(がいひはんてい)
この企業では輸出する製品・技術が規制対象であるか確認する「該非判定」を1年間に3000件以上行っています。
該非判定の際の根拠となるのは経済産業省が定めた「リスト規制」です。
輸出規制に該当する製品・技術が15項目に分類されていて、企業はこのリストと照らし合わせて取り扱う製品が輸出規制の対象であるかどうかを判定します。
日本機械輸出組合発行の「安全保障貿易管理関連貨物・技術リスト及び関係法令集」という分厚いリストを手に判定作業を行っています。
2.取引先情報の審査
取引先の徹底した審査も重要で、ポイントとなっているのは国内外のネットワークから得られた取引先情報の蓄積です。
海外に契約先や輸入者、需要者を対象とした懸念リストというものがあり、それをまとめたデーターベースに対し申請の上がったお客さんが入っていない事を確認をしています。
営業から該非判定や取り引き審査での疑問点が出た場合、徹底的に話し合います。
こうしたやり取りは適切な輸出業務を執り行う上で、欠かせないものと言います。
3.社内研修
年間に数十回もの社内研修を行い、安全保障貿易管理への理解を深めています。
責任者は、「危険な用途に行かせない。そういう情報をいかに取り付けるかという部分が安保(安全保障貿易管理)の一番重要な所で、用途と顧客の情報をより深く正確に把握するのが総合商社の役目と考えています」と語っています。
CASE3:総合電機メーカーの例
100年以上の歴史を持つ、総合電機メーカー。
最大の売り上げを誇るのは情報通信システム部門です。
サーバーやストレージ、通信装置などのハードウェアの製造はもとより、ビッグデータやクラウドコンピューティング関連などのソフトウェア開発も行っています。
このソフトウェアのプログラムの中に暗号機能を持っているものがあり、それがリスト規制の暗号の項目に該当します。
製品だけでなく、技術も含まれているリスト規制品。
日立製作所では以下のような取り組みを行っています。
1.包括許可制度の活用
数多くの製品を輸出、また海外との共同開発も行っているのでその際リスト規制品を数多く輸出する必要があります。
輸出が多い企業にとっては業務の効率を落としかねない為、「一般包括許可」を取得して効率的な輸出を行っています。
この制度を利用すれば、一定範囲の輸出に関して経済産業省に個別に申請する事なく一括して許可を取る事ができます。
2.革新的技術への対応
国境を越えたビジネスの拡大と技術革新によって企業には常に新しい対応が求められています。
クラウドコンピューティングもその1つ。
ネットワーク経由でデータやソフトウェアを提供するサービスで、この企業でも力を入れている分野です。
クラウドは物理的にソフトウェアを輸出する事なく、日本のサーバーに置いた状態で海外からアクセスして使われます。
そういったものも輸出であるという事を認識する事が大切です。
最後に
技術の進歩は正に日進月歩。
日本の高度な技術や製品が思わぬ脅威とならない為にも、安全保障貿易管理への取り組みには細心の注意が必要です。
ここでご紹介している企業は、徹底した情報収集と何重もの社内チェックを行って、安全保障貿易管理に取り組んでいます。
ビジネスを行う際、知らないうちに法に違反してしまわないように、この制度をしっかり理解する事は非常に重要であると言えます。
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